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学部・研究科レポート

2020.01.16

心理学部教員インタビュー(5):原 聰 教授

 本企画「教員インタビュー」では、本学心理学研究科に所属する大学院生の有志がインタビュアーを務め、心理学部各教員からのメッセージをお届けします。授業中に見せる『教員の顔』とはまた別の、各教員の「研究者の顔」「一個人としての顔」を紹介していきます。


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<現在の研究テーマ、専門分野を教えてください>
 今は基本的には供述の信用性分析を専門としています。研究というより、個別事件の供述の分析です。弁護団の依頼によるもので、検察側の立証や裁判所の判決で信用性があると判断された自白や目撃供述に対して、そこに何らかの疑問を投げかけるものです。結果的に、覆る場合も、そうならない場合もありますけど。
 目新しいところでは、裁判員裁判で争うケースを扱っています。重大事件や刑の重い事件において、最近では取調べのテープの分析を行っています。内容は膨大で、今年も夏休みに丸二週間かけて毎日聞いてましたね。

<供述の分析以前に研究していた専門分野はありますか?>
 供述の前に、記憶の実験の研究をやっていました。卒論も修論も記憶の実験を行っていて、修論では処理水準研究を行いました。つまり、刺激に対して我々はどういうような意味付け又は処理の仕方をするかによって、記憶がどう決まるのかを実験により検証していました。
 仕事でもそういうことをやっていこうと思ったのですけど、最初に音楽の短大に就職した時、実験を行う場所、お金、時間がない状況で、実験から少し離れていました。ちょうどその時期に、研究室でぼーっと映画を見ていたら被告人本人から電話がかかってきて、事件の話が来たわけです。今では実験室研究は全然やらなくなったけれど、そこで培った基礎が、実際に今、役に立っていると思うことはよくあります。供述の信用性の分析では、供述そのものを分析するやり方と、そういう体験や想起が可能かというものを実験的に検証するやり方があるのですが、私は後者を随分行っているのでね。
 こういうことをやり始めた当初は、心理学的鑑定を取り入れた判決はほとんどありませんでした。最近では、有意差とか確率とか理解してもらえたようになって、今でも判決にははっきりと書かないですけど、少しずつ変わってきた気がします。これが大きな成果だと思いますね。

<供述の信用性分析に携わろうとしたきっかけは何ですか?>
 直接的なきっかけは、自民党本部放火事件でした。31年前、この目撃証言の鑑定をしたのがきっかけになっています。その事件では、実際に起こり得るかを記憶の実験を用いて鑑定したのですが、その時に認知心理学の中では優秀な研究者たちが複数関わっていて、そういう人たちといろいろ議論したことが、この研究を続けるきっかけになりました。なおかつその事件の判決が無罪になったっていうのが大きかったかな。
 さらに、その事件に関わるのと同時期に行った、電車内の痴漢事件の鑑定もまた無罪でした。日本では迷信的に信用されている有罪率99.9%といわれている中で、このように無罪が二件もあったので、調子にのってやってますね(笑)。
 つまり、その事件に関わったことと、他に多くの心理学者と共同にやってきたことと、結果オーライってことで、今まで続けてきたのかもしれないです。面白いのよ。司法の世界は、心理学的問題の宝庫で、手着かずの問題がゴロゴロ転がっていることが良く分かって、みんなどうしてそこに着目しないのか疑問に思い、自分でやろうと思ったところです。

<どんな大学生活を過ごしていましたか?>
 大学いってないもん(笑)。我々が大学生だった頃は、学生運動が盛んだった時期の最後で、大学に行くことは闘争に参加することと認識されていたので、授業を受けることはあまりなかったし、そういう闘争に参加する意識の方が強かったです。大学を学生が占拠していたため、夏休み過ぎまで授業はなかったです。みんな大学に入るときに、当たり前に、デモとか集会とかにどう参加するかっていう意識が強かったんじゃないかなぁ。1・2年生の頃は授業に出た記憶がなくて、試験も受けないし、当然単位は取れなかったですね(笑)。半分留年して、3年からは単位を取るようにしました。
 その頃からか、いろいろ考えることもあり、学生運動の全体的な終焉と闘争がテロに発展して殺し合いを始めてしまったこともあり、今のまま過ごしても意味がないのではと思い始めました。何かやらなければいけないことはないかと考えたところ、何もやることがなかったのよ(笑)。パチンコやってても飽きちゃうし、お金も使うし、一番簡単に時間つぶせるのは何かって思った時に勉強が思いついたんです。大学では専門分野に関することを教えてくれる先生もいて、お金を使わずに時間をつぶすこともできて、苦労もせずに、研究室に入り浸って先生とコーヒー飲みながらいろんな話もできたし、そういった条件があったから、心理学をやろうと思い始めたんだと思います。ちょうどその時に、教育大の大学院に行った先輩が1人いて、その先輩と話していると、大学院生活が楽しそうだと思って、大学院進学を目指しました。

<高校生へのメッセージをお願いします>
 今の高校生がどんな生き方をしているのかに関して、正直私には想像がつかないです。ただ一つ最近の高校生を見ていると、物事はこのままであるのが当たり前で、疑問を持たない人が多いと私は感じています。そう思うと、高校生たちに伝えたいことはやっぱり「当たり前を疑え」ですね。
 あともう一つ最近感じたことがあって、私たちが持っている、例えば1時間や1日という時間の単位は、我々が思っている以上に多様な時間の単位があるのではないかと気づきました。その時間をどう過ごすかも人それぞれで、同じ時間を同じ単位で生きていなくてもいいじゃないかと最近思うようになってきましたね。例えば学生がみんな小学校6年、中学校3年、高校3年を経て大学に4年間進学するのが普通という社会の中で、そこから外れた人は自分が社会からはじかれているって思うかもしれないけど、そんなことはない気がちょっとします。もちろん好きな時に大学に行き、好きな専門を好きな時に勉強するっていうのは、社会からはじかれる可能性があって、大変な思いをするかもしれないけど、そんな生き方もあってもよいのではないでしょうか。

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◆教員プロフィールを詳しく知りたい方はこちらへ↓
教員情報
https://faculty.surugadai.ac.jp/sudhp/KgApp?kyoinId=ymdegegyggy

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