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学部・研究科レポート

2020.07.02

「新型コロナウィルス感染症」と雇用:企業と従業員の生き残りを考える

経済経営学部教授 小澤伸光

 「新型コロナウィルス感染症」による緊急事態宣言が解除されました。その後、日本経済や雇用の状況はどう変化してきたでしょうか。
 トヨタはじめ自動車メーカーは、5カ月ぶりに一部事業所で期間工の募集を再開しました。「新型コロナウィルス感染症」によって落ち込んだ需要が回復の兆しを見せているからです。日産自動車や、ホンダも、一部事業所での期間工の募集を始めています。(日本経済新聞電子版2020年6月26日)
 しかし、6月22日発売の『週刊東洋経済』では、「コロナ雇用崩壊」の特集を組んでいます。6月27日の日本経済新聞<経済論壇>では、「コロナで雇用はどう変わるか」をテーマとしています。「コロナ禍」が雇用に与える影響は、今だけでなく、これからが大きな課題なのです。

 「コロナ禍」による雇用への影響を真っ先に受けたのは、非正規労働者でした。これは、アメリカでも日本でも変わりはありません。人の移動が急減し、テレワークが急増し、外出、外食をできる限り控えるとなれば、観光業、サービス業の需要は極端に低下します。
 京都・横浜の観光ビジネスを近年の研究テーマとする私にとり、実地調査ができないもどかしさがつのります。また、肩や背中が凝りやすい私は、定期的にマッサージをお願いしていたのですが、それもかないません。凝りがひどくなるばかりです。その上、理髪店にも行けませんから、(頭頂部を除けば)学生時代のような髪型になりつつありました。

 労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」と、規定されています。「コロナ禍による休業」が同条に当たるかは判例、学説上議論のあるところですが、労働者保護の立場から、休業手当を支給するケースが増えています。政府は、休業手当を支給した企業に対し、雇用調整助成金を活用して支援する施策を充実させています。一人あたり支払われる上限額を、日額1万5千円にあげました。
 観光業、サービス業の従業員は、非正規労働者や女性の比率が高いので知られています。学生アルバイトも少なくありません。学生アルバイトには、休業手当の支払いはされず、雇い止めが増加しています。

 さて、「コロナ禍」によって大きく変貌したのは、在宅勤務(リモートワーク、テレワーク)の増加でした。在宅勤務が日常化すると、仕事の見直しや、管理者・従業員の職責・職務評価、の再検討のよい機会となります。オフィスでの仕事を自明視することへの疑問が生まれるのです。既に、渋谷区界隈のオフィスの空き室率が上昇しています。渋谷周辺では、スタートアップ企業のオフィスが多いのですが、企業成長を当て込んだオフィスの増床計画を見直し、IoTの活用によってオフィス面積の縮小を図っているのです。
 また、大手メーカーの減産によって受注が減った、ティア2(二次下請け)の町工場では、空いている設備と人員を使った他企業からの受託生産で稼働率を維持しているところもあります。これには、企業間ネットワークが強みを発揮しています。

 生産性の低さをコストカット、人件費カットのみで乗り切ろうとする社長は三流であるといわれても否定できません。付加価値を上げるのは、従業員の学習意欲と能力を高め、それらを組み合わせて付加価値の高い製品・サービスを創出する経営者の才覚(タレント)なのです。才覚は生まれついてのものではありません。生まれてからあとの、学生時代と仕事経験とを通じて「失敗」に学ぶ姿勢から形成されるものです。

 「失敗に学ぶ」姿勢、リスクを感知し素早く対応できる力は、従業員にも求められます。会社や組織は永遠ではありません。いつなんどき、倒産による解雇など自身の職業人生の岐路に立たされるか分かりません。自分を守るのは、自分のキャリアで培った資質・能力・態度と、「労働法」の実践知です。私が、大学の講義やゼミで教えることの根底には、これがあります。特に、「現代経営組織論」や「現代人的資源管理論」では、実例を通して受講者に考える習慣づけすることを念頭に講義を行ってきました。
 もっとも、教える準備には相当の時間をかけてきました。例えば、「現代人的資源管理論(労務管理論)」の場合です。学部レベルの労働法は、50年近く前に木村先生から手ほどきを受けました。けれども、労働法や労務管理の現場レベルの実践知は、人事担当者や弁護士の皆様への聞き取り調査によってしか育むことはできません。それも、聞き取り調査の前に、関連文献を読み込むことが前提です。そして、聞き取り調査が終わったあとも、常に、最新の実務から学び、自分自身の理解をアップデートしなければならないのです。40年近く前の大学院生時代に、日本能率協会の研究会でご縁をいただいたのが、大手企業の人事担当者の皆様でした。

 最後に、最近、読んだ文献のいくつかをお示しします。例示として使う、参考書として紹介する等、何らかの形で、講義で使っています。

1)高井・岡芹法律事務所 (編)『Q&A現代型問題社員対策の手引〔第5版〕─職場の悩ましい問題への対応指針を明示─』2019年  民事法研究会
会社は甘くはありません。「問題社員」とはどういう社員か、「問題社員」とみなされたらどうなるかを示す本です。

2)岡芹 健夫『労働法実務 使用者側の実践知』2019年 有斐閣
3)君和田 伸仁『労働法実務 労働者側の実践知』2019年 有斐閣
労働関係訴訟を検討する場合には、経営側、労働側の両視点から理解することが必須です。多元的・複眼的思考力を養うのに有用です。

4)東京弁護士会労働法制特別委員会(編)『新労働事件実務マニュアル 第5版』2020年ぎょうせい
5)白石 哲『裁判実務シリーズ1 労働関係訴訟の実務〔第2版〕』2018年 商事法務
「労働法」を知っているだけでは、現場の労働問題への対応はできません。訴訟と訴訟外解決法など、労働問題解決方法の多様性と、必要な論点、証拠資料を確認するための参考文献です。

6)加藤 新太郎・嘉納 英樹『法律書では学べない 弁護士が知っておきたい企業人事労務のリアル』2019年 第一法規
労働弁護士は、企業の労務管理実務を意外と知りません。経営側労働弁護士向けに書かれた本ですが、「採用」の際の人物評価の留意点など、学生にも参考になる良書です。

7)石嵜 信憲(編著)『同一労働同一賃金の基本と実務 』2020年 中央経済社
8)別城信太郎(編著)『Q&A 同一労働同一賃金のポイント-判例・ガイドラインに基づく実務対応』2019年 新日本法規出版
9)水町 勇一郎『「同一労働同一賃金」のすべて 新版 』2019年 有斐閣
最もホットなテーマを扱った本です。日本企業の大部分が職務等級制度(Job Grade)を導入していません。「同一労働・同一賃金」は、本来、職務等級制度を前提に成立する制度です。「同一労働・同一賃金」の日本的なバリエーションを理解し、人事労務実務に利用できる本です。

10)労務行政研究所 (編)『第2版 実務コンメンタール労働基準法・労働契約法 (労政時報選書)』2020年 労務行政
労働基準法・労働契約法の各条文理解の必携書です。

 卒業するまでだけでなく、卒業したあとも学習は続きます。経営学なかでも人的資源管理論(人事労務管理論)ほど、人間くさく面白い分野はありません。また、時代の流れに従って、法律や制度が変化しやすい領域でもあり、トレンドの中に身を置きながら試行錯誤する(自分自身を磨く)機会を提供してくれます。
 学部から50年近く、人事労務管理実務と教育・研究に関わってきた私の実感です。

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