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日常生活の落とし穴――新型コロナウィルス感染症から気づかされたこと

2020/05/20その他

経済経営学部教授 小澤 伸光

 新型コロナウィルス感染症によって、この1から3月期では上場企業の4社に1社が最終赤字になります(日本経済新聞電子版2020年5月16日朝刊)。
 サプライチェーンがグローバル化したために、1カ所でも部品生産、物流が滞ると完成品生産がストップしてしまいます。生産コスト、在庫コストの削減を、部品生産、供給を世界的なネットワークで結ぶことで果たしてきたことの、もろさを露呈してしまいました。
 しかし、トヨタのカンバン方式を源流とする生産システムのもろさに気づかされたのは、実は、1997年の部品メーカー工場の大火災でした。20年以上前の経験をきっかけに、災害によるサプライチェーンのもろさの対策は、国内のある地域に限定すれば、既にできあがっていたのです。中越地震のときの経験は、その後、東日本大震災に活かされています。
 けれども、今回のように、長期間にわたる、世界的規模のサプライチェーンの寸断を前提とした、
business continuity plan(BCP:事業継続計画)を策定していた企業は皆無といってよいでしょう。
 およそ想定しうる最悪の事態を考えて、対策を検討するという「インテリジェンス」の基本(クライシス管理の基盤)は、未だ根付いていなかったといわざるをえません。
 人間誰しも、自分にとって都合の悪いことは考えたくないものだからです。

 そうではあっても、今回の経験から、日常生活で当たり前とされてきたことのもろさに気づき、そこでの失敗を活かす方法を身に付ければ、この次に同じような事態が起こったときに動揺せずに生活することができます。

 そのときイメージすべきは、今売れているものの、売れている理由を考えることです。
 皆さんは、すぐに「マスク」を想起するでしょう。それでは、「マスク」以外に、今売れているものは何だと思いますか。
 感染症のアウトブレークによる移動制限は、在宅勤務(テレワーク)をする従業員を増加させました。テレワークに必要な機材を考えてみてください。
 パソコン、Wi-Fi 関連機器はすぐに思いつきます。従って、それらの需要は急増し、パソコンは品薄になりました。2月、3月はパソコンが値下がりするのですが、今年はその兆候は見られません。
 自宅での仕事になりますので、パソコン作業用のデスク、椅子などの需要も増えました。ある大手家具メーカーでは、デスクなどの売れ行きが堅調でした。

 このようなハードウェアに加えて、事務作業に必要なPDFファイルの操作法を扱う書籍も売り切れです。中古本は、定価の倍以上の価格になりました。オンライン講義に移行した大学の増加にともない、「オンライン講義」のノウハウ本も品切れとなっています。
 ビデオ会議が常用されますと、自宅での作業をする様子が映ります。自宅の様子が背景として表示されますので、背景表示を消去するソフトウェアも売れるようになりました。
 仕事場、仕事の仕方が変わりますと、それに応じて使用する商品が変わります。経営学の視点からしますと、このような変化と必要な商品・サービスとの関連性に早く気づくかどうかが、市場開発担当者のセンスのレベルを示すのです。
 変化の中から、他人が気づかぬ関連性を見いだせるのは、日常生活で自明視されていることに、常に疑問を抱く姿勢なのです。
 このような見方、考え方を常日頃から徹底することが、リスク管理、クライシス管理の基盤を築きます。日常生活の落とし穴に気づくきっかけになるのです。

 かつて私は、駿河台大学大学院で「リスク管理」の講義を担当したことがあります。企業や国家における、リスク管理、クライシス管理に長らく関心を抱き、細々と文献を読み、考えてきました。今回のパンデミックを経験して、この小文を記した次第です。

20200520keizaikeiei.jpg需要が急増したマスク、テレワークに欠かせないパソコン、マイク


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