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学部・研究科レポート

2019.11.21

中華圏周遊の旅-補遺-

現代文化学部教授  天野 宏司

 天野は、夏季休暇を利用して中華圏を周遊してきたことはすでに本コラムを通じお伝えしました。中国本土~香港~台湾です。10月末の学園祭期間を利用し、再び香港へ行ってきました。香港は、現代文化学部で実施している「観光研修」の研修先として検討している地域であり、実際に過去の実施も行っています。今回の訪港の目的は、研修が行いうるかを視察するためのものでした。

 ご承知の通り、香港は今、「逃亡犯引き渡し条例改正案」が提出されたことに端を発し、反対する市民のデモで騷がしいことになっています。9月には「逃亡犯引き渡し条例改正案」自体は撤回が表明されたものの(手続き的には正式に撤回されたのは10月)、騒動は収まらず、デモ隊は五大要求として、(1)条例改正案の撤回・(2)デモの「暴動」認定の取り消し・(3)警察の暴力に関する独立調査委員会の設置・(4)拘束したデモ参加者の釈放・(5)林鄭月娥行政長官の辞任と普通選挙の実現を掲げ、騷がしい状態が続いています。

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 条例案撤回が表明されて以降を簡単に振り返ると、a)デモ時のマスク装着禁止令、b)地下鉄等の公共交通機関の閉鎖、c)デモ隊への無差別襲撃、d)デモ参加少年への実弾発砲、など民衆の気持ちを逆なでする措置が次々と執られています。10月1日が中華人民共和国成立70周年の記念日であり、中国政府のメンツを考えても、行政側はこれまでに沈静化を図りたかった物であろうと推察されますが、結果的には11月をむかえた現在でも沈静化は行われないどころか、騷ぎは一掃ひどくなっている観を受けます。

 と、言ったような現状を確認するために香港を再訪しました。そもそも香港には、イギリス統治時代から「自由放任主義(レッセ・フェール)」という、行政に頼らず自分たちのことは自分たちで決める風土があります。そのことを旅行者の立場で一番感じるのは、両替所のレートではなかろうかと思います。「自由放任主義」ですので、行政側で香港ドルの交換レートを一律決めるのではなく、各両替所ごとに自由に交換レートを設定しています。したがって、隣りあう両替所でも交換レートが違っている事はざらであり、そこに「自由競争が生まれ」、「淘汰されていく」という考え方が根強くあります。いわば1997年の中国返還以降、中国政府によって様々なことが決められ、「自分たちのことを自分たちで決められないもどかしさ」が、今回の騷ぎの根底にあるのではないかと個人的には思っています。

 デモ行進そのものは、予定されて行われるもの(行政府への届けが行われているもの)や、自然発生的なものなど、夜になれば規模の大小を問わず至る所で行われているようです。天野の香港滞在中にも、公表されている集会のほか無許可の抗議集会やデモ行進が散見されました。また、当初許可されているエリアから移動して、結果として無許可エリアの抗議活動も行われています。天野が遭遇した反対集会も、当初平和的に行われていましたが、次第にヒートアップしていき、また警察による催涙弾の発射もあり、同時に抗議集会の場所が他所へ移り許可を得ていないエリアでのものへと変わっていきました。写真では黄色いベストを着ている報道陣と、武装警察、黒いシャツを着たデモ隊と三者が確認できると思います。

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 警察は完全装備で催涙弾を発射し(時折風向きの具合で天野の方にも臭ってきますが刺激の強いこと!)、デモ隊は道路封鎖をして通行を妨害したりしていました。香港における今回のデモの特徴として、指導者不在であることが指摘されますが、少なくとも天野の目には統制が取れているように見えましたし、デモ隊を誘導している人物も存在していましたので、現場レベルで考えた場合、「烏合の衆」ではないのだろうと見ました。
 8月の訪港時には感じなかったことを10月には感じ取りました。今まで、香港の街並みは、裏路地はともかく目抜き通りは「落書き」のほとんどない街でした。今回訪れて思ったのは、「街が汚い」ことです。実に様々な落書きが至る所にありました。道路に直接ペイントをしている例もあり、今までに見たことがない香港でした。様々な文言で落書きがなされ、漢字・英語が多いのですが、中には日本語で書かれた物もちらほらと見受けられます。

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 また、地下鉄の入り口の一部は封鎖され出入りができず、また地下鉄入り口に設置されている監視カメラはことごとく壊されていました。地下鉄構内に入ると、切符の自動販売機・自動改札の一部は壊されて使えなかったり、液晶画面が割られていたり、エレベーターが破壊されていたりと、至る所でデモ隊が暴徒と化した様子が感じ取れます。

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 個人的に一番困ったのはデモが発生すると、彼らの襲撃を恐れてか?はたまた警察に追われたデモ隊の逃げ場所になる危険性を回避するためか?いずれにせよ店舗が閉鎖されてしまうことです。ちょっとした買い物に行こうと思ったら「閉まってて買えず」ということが一再ならずありました。
 さて、問題の「香港の治安」ですが、当然デモが行われている最中は危険性が高く近寄らない方がよいのは言うまでもありません。また、突発的にデモが始まることを考えても繁華街には脚を近づけない方がよいでしょう。一方でデモが発生する危険性がほとんどない郊外では、日常的な生活が通常通り行われていました。

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 正直なところ、自分一人で行動するのであれば危険地域に近づかなければどうにかなるでしょうが、こと学生を引率して責任を他者の分まで負うことを考えると現況では研修先の候補に加えることはできそうにないと感じました。

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