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2024.05.30

情報処理教育センターだより(35)~物語とICT(5)『ハロー・ワールド』とインターネットの自由~

情報処理教育センター 助教 新井 葉子

このシリーズでは、情報通信技術(ICT)が物語の展開に必要不可欠な要素として組み込まれている小説や映画を紹介している。今回の物語は『ハロー・ワールド』(2021)。

表題となった“Hello, world!” とは「新たなプログラミング言語を試すとき、データベースを作るとき、アプリを作るとき、サーバーで動くプログラムを書くとき、一歩目を踏み出すときに必ず書く言葉」であり、主人公の文椎(ふづい)にとっては「うまくいきますように」と念じるおまじないの言葉である。

文椎はITベンチャー企業に勤めるシステムエンジニア(SE)。ある日、自作の広告ブロッカーアプリが、インドネシアの一部で思いがけず大量にダウンロードされる。その謎を追ううちに、検閲や盗撮で国民を支配しようとする政治権力の存在に気づく。

アメリカ、タイ、中国と舞台を変えながらも、文椎はインターネットの自由のために、技術者として最善を尽くそうとする。フィクションではあるが、日本を含め、各国のICT環境の描写にはリアリティが感じられる。一方で、現実の世界ではインターネットの民主化が必ずしも自由や平等をもたらしているわけではないことも、残念ながら事実である。
「かわいいフリー素材集 いらすとや」(https://www.irasutoya.com/)より
「クビになった青い鳥のイラスト」
ところで、私自身はSNSの利用はプライベートでは最小限にとどめているので、旧ツイッターもXも使ったことがない。だが、去年(2023)の夏、ツイッターの青い鳥のロゴが黒々としたXに変わったときには何やら不穏な空気を感じたものだ。フリー素材のイラストを提供する人気サイト「いらすとや」にも、突然「クビだ!(FIRED)」と告げられ衝撃と困惑を露わにする青い鳥のイラストが掲載された。

『ハロー・ワールド』でとくに印象的だったのが、主人公の旧ツイッターへの思いが吐露される箇所だ。インターネットの自由を象徴するように登場したツィッターが変節してしまった2010年のことや、その後同社が中国に進出した2020年のことに触れている。ツイッターがXとなったのは本書が出版されて2年後のことだが、物語を読んで、青い鳥が無邪気にさえずることが出来なくなり「クビ」になるまでの経過に思いをはせた。

  • 藤井太洋『ハロー・ワールド』(講談社 2021)
  • 挿入画像:「かわいいフリー素材集 いらすとや」(https://www.irasutoya.com/)「クビになった青い鳥のイラスト」
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