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2024年2月15日

情報処理教育センターだより(31) ~物語とICT③ AIロボットとの暮らし~

 情報処理教育センター 助教 新井 葉子


人工知能(AI)研究の第一人者、ジェフリー・ヒルトンといえば、少し前まで人間の能力を超えるAIの実現に懐疑的だった。しかし、ChatGPTなど対話型AIが急速に進歩する様子を見て、2023年初めに考えを改めたという。ヒルトンは、「共感力を示すように訓練すれば、AIも共感力を示すことができる」と語り、AIも画像などの認識を通じて独自の観点、すなわち「主観的な体験」を持ちうるとも語る。(『朝日新聞』2023年12月25日 朝刊)


「共感力」や「主観的な体験」をAIが持ちえたとして、ではAIは人と同じような「心」を持てるのか。ヒルトンが指摘するような方向でAIが発展し、たとえばヒト型ロボットとして社会に登場したら、私たちはそれら(彼ら?)とどう付き合うことになるのだろう。そのような近未来を描く物語を二冊、紹介する。


一冊めは、カズオ・イシグロ『クララとお日さま』(早川書房 2021)。AIロボットのクララが語り手だ。クララが体験していく日常を、読者はクララの視点から「追体験」する。


二冊めは、一本木透『あなたに心はありますか?』(小学館 2023)。AIロボットに心を持たせる研究をめぐるミステリーだ。物語が進むにつれ、人の心を越えた真心がロボットに宿る可能性について考えさせられる。


AIロボットの視点(を想像して物語を立ち上げた作家たちの視点)から見える近未来の人間社会は、どこか殺伐としている。それは、AIの「心」が未熟だからなのか、それとも人の心が病んでしまっているからか。その判断は、物語を受け取った私たちに委ねられている。

 

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飯能中央公園の鉄腕アトム像。アトムの足元には「人と人 人と自然 人と機械が いつまでも 仲のよい ともだちで ありますように」と刻まれている。(筆者撮影)