研究科長メッセージ

心理学を活かして社会に貢献したい学生を歓迎します
~臨床心理学専攻と犯罪心理学専攻の2専攻があります~

心理学研究科長 川邉 讓

研究科長メッセージ

 本学心理学研究科は、2009年にわが国最初となる「法心理学専攻」と臨床心理士養成のための「臨床心理学専攻」の2専攻制で創設され、両専攻間の教育内容を相互に結び付けることによって、より複合的で幅広い視点に立ち、多様な専門的知識と技能を身に付け、それらの知識と技能をもって心の問題に実際的に対処できる専門家の育成を目指してまいりました。

 しかし、創設以降今日までの間に、実社会で活躍する心理専門職を取り巻く環境は大きく変わり、司法関係では、2012年の法務省専門職員(人間科学)採用試験の開始により、従来の法務教官に加え、法務技官(心理技官)及び保護観察官が人事院が行う国家公務員採用試験により採用されることとなりました。

 また、2015年には「公認心理師法」が制定され、心理職が国家資格化され、2018年9月には第1回の公認心理師試験が実施されました。社会福祉との近接領域でも心理専門職へのニーズが拡大し、例えば、2016年の児童福祉法改正に伴い、東京23区において児童相談所設置が可能となり、発達心理学や発達臨床分野の専門職の活躍の場が拡がっています。2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震等の際に、多くの臨床心理士が心のケアに従事したことも記憶に新しいところです。

 こうした時代的変化を受け、本学心理学研究科は、2017年度から「法心理学専攻」を「犯罪心理学専攻」に改編し、カリキュラムを犯罪心理学の専門職の育成という専攻の目的により合致させた内容とし、犯罪心理学、法心理学の研究・教育のほか、保護観察所などでの実習体験、刑務所や少年院、少年鑑別所などの施設見学などを通じての実践的な教育を充実強化させました。これにより、家庭裁判所調査官、法務省専門職員(人間科学:矯正心理専門職、法務教官、保護観察官)、警察官といった司法、法務関係の専門職のイメージが明確化され、より実際的・現実的な学習が可能となるとともに、それら専門職採用試験に向けての意欲も高まるものと考えております。

 また、臨床心理学専攻においては、2018年度入学生分から臨床心理士の受験資格とともに公認心理師の受験資格をも充足するカリキュラムへと変更しております。本学の臨床心理学専攻の最大の特徴は、併設されている心理カウンセリングセンターで地域の住民の方々の相談業務に関わり、実務経験の豊かな教員からのスーパーヴィジョンを受ける「内部実習」と、精神科領域・教育領域・福祉領域の学部機関での「外部実習」の両方が非常に充実していることです。内部実習は年々ケース数が増加しておりますし、外部実習も毎年のように新規の実習先を追加しております。お陰さまで、院生一人当たりのケース数は十二分に確保され、院生たちは通常ではなかなか得難い多様で貴重な臨床経験をたくさん積んでいます。臨床は実地体験を通じての学習が最も重視される領域ですので、臨床心理士や公認心理師を目指す諸君には非常に恵まれた教育環境となっています。

 このように、本研究科は、従来の大学院が主たる目的としてきた研究者養成よりも、心理学の専門知識を活かして、市民が生活場面で直面する様々な問題の解決に貢献できる専門職業人の育成に比重を置いた教育に力を注いでいます。また、臨床心理士資格試験・公認心理師試験や法務省専門職員(人間科学)採用試験の合格に向けた課外指導にも力を入れております。

 犯罪心理学領域・臨床心理学領域において明確な目的意識をもち、大学院で身に付けた心理学の知識や技能を活かして社会に貢献しようという意欲をもった諸君を歓迎します。

公認心理師資格と臨床心理士資格について

 公認心理師法は、2015年9月に成立し、2017年9月に施行されました。そして、2018年9月には第1回の資格試験が実施され、公認心理師が誕生します。

 そのため、心理臨床の実践においては、公認心理師と既にある臨床心理士という2つの資格が存在することとなります。こうした事情から、臨床心理学系大学院進学を希望する学生の皆さんから、「どちらの資格を目指すべきなのか?」などいった質問を受けることが多くなりました。そこで、現時点における本研究科臨床心理学専攻の基本的な考え方をお伝えしておきたいと思います。

 公認心理師は、法律に根拠を持つ国家資格であり、精神科医療の現場などで勤務する場合にはこの資格が必須になるものと考えられます。また、他の領域でもこの資格を持つことを採用条件とするところが今後増えていくものと予想されます。ですから、現実的な話として、これから心理臨床の場で活躍しようと考えている人は公認心理師資格を取得するべきだと考えています。

 しかし、公認心理師に対する社会的評価は、現段階では、「国家資格なのだから心理臨床の専門家として適格なのだろう」という推定や期待の段階にあり、まだ、安定したものとなっているわけではありません。このように、同資格に対する評価がどの程度の信頼度で安定するのかに関しては若干流動的要素があることは否定できません。

 一方、臨床心理士は、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定している民間資格です。しかしながら、1988年の認定開始から今日まで30年の歴史を持ち、既に各領域で高い信頼を確立しています。また、資格の更新制度があること、有資格者対象の研修が充実していることなどにより、有資格者の質が保証されていることに関しても高い社会的評価を得ています。したがって、公認心理師資格ができたからといって臨床心理士に対する社会的評価は低下しないように思われます。

 そこで、本研究科臨床心理学専攻としては、公認心理師と臨床心理士の両資格の受験資格要件を満たすようなカリキュラムを用意しました。本専攻の場合、臨床心理士養成のための実習時間をかなり多めに設定している関係から、実習に関しては両資格に共通の科目となっています。しかし、その他の科目に関しては、両資格を目指すとなると臨床心理士資格のみを目指すのに比べてかなり多くの科目を履修しないといけなくなります。両資格を目指すと、率直に言って、負担は大きくなります。

 しかし、この2つの資格を持つことで得られるメリットは、その負担に十分に見合うものです。ですから、本専攻としては、負担が大きくなることを承知の上で、学生諸君に公認心理師と臨床心理士の両方の資格を取得することを強く勧めたいと考えています。

本研究科臨床心理学が養成したい心理専門職像について

 先のメッセージでは、本研究科臨床心理学専攻においては、公認心理師と臨床心理士の両方の資格を目指すことのできるカリキュラムを用意してあること、両資格を目指すことは臨床心理士資格のみを目指すのに比べてかなり多くの科目を履修しなければならず、負担が大きくなること、しかし、両資格を目指すことのメリットは負担に見合うだけのものがあることをお伝えしました。

 さて、研究科長個人としては、両資格を目指すメリットは、「資格」が心理職として働くのに現実的な有利をもたらすということよりも、両方の資格取得のためのカリキュラムをしっかり勉強し、心理職として働くための知識・技能・姿勢を身に付けることができるというところにあると考えています。

 公認心理師は、汎用性の資格ですから、臨床心理士と比較したとき、相対的には、心理専門職の貢献が期待されている各領域において、対クライエントのみならず、クライエントに関係する多職種・諸関係機関との関係において十分に機能するために必要な知識・技能等を身に付けることが求められていると考えられます。それがチーム医療、チーム学校、多職種連携などの概念の強調につながっていると考えられます。一方、臨床心理士は、「臨床」の語に象徴される個への寄り添いを基本として、その寄り添いをより適切かつ有効なものとするためにチームに参加するあるいは多職種と連携する必要があるという順序立てがより強調されていると考えています。こうした考え方は、誤解や偏りに基づくものであり、両資格は根本的なところでは同質だとの指摘があろうことは重々承知していますし、実際、基本的な考え方は同じで、違いは相対的でしかも些細なことだとも言えます。しかし、この些細かもしれない違いについて敢えて申し上げるのは、本専攻は、その些細なことを重視したい、つまり「臨床」に真摯に取り組み、クライエントを尊重する姿勢をしっかりと身に付けた専門職を育てたいと強く考えているからです。「姿勢」の問題は、心理臨床の専門職が終生向き合っていかなければならない課題ですが、その課題の重要性を、臨床の道を目指した最初の時点で身に染みて理解しないと後々回り道することになることは必定だと考えています。

 もちろん、クライエントの利益を考えたとき、チームや多職種連携により支援することは重要かつ必要です。しかし、その中で心理専門職が埋没することなく機能するためには、心理専門職として「臨床」に真摯に取り組み、クライエント個人を尊重し、多職種から心理専門職としての知識や技能だけでなく、その姿勢を評価・尊重される必要があります。

 誤解を恐れず申し上げるならば、取り越し苦労が過ぎるかもしれませんが、公認心理師のみを目指せば、相対的に個の尊重に関する教育訓練が時間的に不足し、臨床心理士のみを目指せば、多職種連携や関係法令・組織論に関する教育訓練が不足するといったことになると危惧します。研究科長個人としては、このような事態をどうしても避けたいのです。本専攻が、両資格の取得を目指すこととしている理由が分かってもらえたでしょうか。

 繰り返しになりますが、両資格を目指すことは負担です。しかし、目指すことのメリットは負担に見合うだけのものがあります。

 より高い水準の心理臨床専門家を目指す、意欲にあふれる学生諸君を歓迎します。

TOP