秋池 宏美(現代文化学部教職課程委員)

青春の夢に忠実であれ

秋池 宏美(現代文化学部教職課程委員)

わたしは、毎年、一年生が受講する最初の授業で「みなさんが教師になろうと思えば、教師になれるのですよ」と語りかけるようにしています。今日は、ある学生の話しをしましょう。

4年前のことです。授業の流れでたわいのない言葉遊びをしたとき、「あっはっは」という笑い声が、静まり返った大教室の中に響き渡りました。その屈託のない笑い声を聞いていたら、うれしくなりました。わたしの言葉を拾い上げてくれていたのがうれしかったのです。話しを聴いているから笑えるのです。実際のところ、笑顔を浮かべている学生もいたのですが、声を出して笑った学生は一人でした。

また、学生たちのレポートを読んでいたとき、とても気持ちのいい文章に出会いました。この文章を書いた学生、ここではAさんと呼ぶことにしましょう。Aさんの文章を読み終わったあと、Aさんはきっと教師になれるだろうと思いました。そう思ったのは、Aさんの文章には歪みが感じられず、物事に真直ぐに向き合える力を身につけていると感じたからです。物事に真直ぐに向き合うというのは、たとえば、他者と向き合う、課題と向き合う、自分と向き合うということです。

その思いを本人に伝えたくなって、授業が終わったあと、Aさんの名前を呼んだところ、「なんですか」と言いながら現われたのが、わたしの言葉遊びに反応してくれていた学生でした。わたしの直感はまんざら外れてはいないと思いながら、「教師をめざしているのですか」と聞くと、「教師になるのが夢なんです」と答えたので、「あなたは必ず教師になれますよ」と伝えました。Aさんは、笑顔を浮かべて聞いていましたが、返事に困ったのか、「本当ですか」と何度も繰返していました。一度も言葉を交わしたこともないのに、不思議なことを言う人だと思っていたのかもしれません。

その後もAさんはわたしが担当する講義や演習を履修していました。そして、Aさんが4年生になって半年が過ぎたころ、Aさんから教員採用試験に合格したと記されたメールが届きました。早速、Aさんの友だちを含めてお祝いの食事会を開きました。人の夢が儚いのも真実であれば、夢を抱く人だけが夢を実現できるのも真実です。しかも、Aさんは、かつてわたしの言葉を拾い上げてくれたように、わたしの夢も一緒に実現してくれたのです。

Aさんは、早春、駿河台大学を巣立っていきました。Aさんは、在学中、多くの方々に支えられながら勉学と部活の日々を過ごしていたようですが、そういう支えを活かせる力が育っていたからこそ、自分の力で教師の道を歩むことができたのだと思います。古い言葉を使いますが、Aさんは「青春の夢に忠実であれ」を実践したのだと言ってもよいでしょう。

青春を知らず夢を抱けない若者が増えてきたと指摘される時代だからこそ、いつの日か、夢を追い求める学生たちに歓喜(よろこび)の歌を謳える日が訪れることを願っています。



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