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2024年3月15日

情報処理教育センターだより(33) ~物語とICT④ 対話型生成AIとの未来~

 情報処理教育センター 助教 新井 葉子


生成AIのアンドロイド 人間と話をしている-small.png

「ChatGPTは、ユーザーが知りたい情報をテキストで入力すると、自然言語処理を徹底的に学習したAI(人工知能)が、入力された情報を解釈し、答えとなるテキストを作成してくれるサービスです。」(須藤 健一 「対話型AI『ChatGPT』の特徴は? GoogleやMicrosoftの参入で大混戦」『日経XTECH』2023.9.25 より引用)

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02554/082800001/ 



2022年11月のChatGPT3登場は衝撃だった。以来、ここ一年余りの間に何種類もの生成AIが登場したりバージョンアップしたりしている。日本語で質問を入力すると数秒後には、そつのない日本語で、まことしやかな回答が表示される。最初は面白がって「対話」してみたものの、提供された情報には間違いもある。そのことを「対話」で伝えるたびにChatGPTは慇懃な謝罪を返してくる。そんなことを繰り返すうちに乗り物酔いでもしたように気分が悪くなった。なぜだろう。自然言語処理を学習した人工知能が、私の入力した文章を解釈し、その解釈に対応した回答を、学習した確率にしたがって選び出した言葉を組み合わせて文章にした。それだけのことだ。それなのに、私は無意識のうちにAIに思想や感情という「心」を求めてしまい、AIの「人格」の一貫性の無さに苛立ってしまったのだ。


さて、思想や感情を表現する文学でも、対話型生成AIを物語の重要な要素に組み込んだ作品が発表されはじめた。最近国内で出版された物語を2つ紹介したい。


まずは『東京都同情塔』(2024)。時は近未来、場所は東京のパラレルワールド。世界屈指の建築家、ザハ・ハディドが設計した国立競技場が実際に建設され、東京オリンピックも2020年に開催された世界だ。そこでは、国立競技場のそばに刑務所の機能を持つ塔を建てる計画が進んでいる。塔の建設を自らの使命と捉える30代の牧名沙羅と、彼女を慕いつつも冷静に見つめる青年、東上拓人の二人を軸に、建築という実体を持つ行為と文章構築という観念的な行為とが重なっていく。SlackやWikipediaや旧Twitterなど、現実に多くの人が利用しているICTも登場するが、重要な役割を果たすのは対話型生成AI「AI-built」だ。


つぎに『嘘吹きアンドロイド』(2024)。本書は『嘘吹きネットワーク』(2021)、『嘘吹きパスワード』(2023)の続編だ。舞台は現代日本。これまでのシリーズで活躍してきた主人公たち(理子、鞠奈、錯)が、同じ中学の「ルーくん」こと田中瑠卯との関わりを通して人間とAIの違いを考えていく。自分はアンドロイドだと語るルーくん。最初は、そのことを信じるか信じないか、という他愛のない問題だった。しかしやがて、鞠奈がルーくんの異常事態に気づき、主人公たちが動き出す。物語のカギを握るのが「ワードリバー社が開発した、チャット型AI」だ。生成AIとの対話人間同士の対話の決定的な違いを示す終盤の展開が印象的だ。


生成AIは暮らしを豊かにするツールとして提供されている。しかし、利用するには心構えが必要だ。では、それはどのような心構えなのか。これらの物語が、その答えを探す力を与えてくれる。



  • 九段理江『東京都同情塔』(新潮社 2024)
  • 久米絵美里『噓吹きアンドロイド』(PHP研究所 2024)

※挿入画像は画像生成AI「AIいらすとや」で作成(プロンプトは「生成AIのアンドロイド 人間と話をしている」)。