発表(15) ←戻る 目次 次→

要約:

七月入ると、尚侍が妊娠五ヶ月と奏上して、大将の二条殿へ里下がりした。尚侍は今の我が身につけても、最初に産んだ若君のことを思い出す。今は大将との縁で、尚侍のこの二条殿への里下がりの間も、中納言がずっと吉野の姫君のところに来て、侍女たちと語らいふざけたりしていかれるのを聞くと、尚侍はこの男と昔から見苦しいほど馴れ親しんで、お互いに何の隔てもなく語りあっての挙句には、あきれたことに風変わりな身の有様まですっかり見せてしまった運命も、しみじみ感じない訳でもなく、まして二人の間に生まれた若君の無心の笑顔を思い出すと、この男の声や気配を聞くたびに、浅からず心を動かされて涙のこぼれる折々もあるが、「これを見咎める人でもいたら変に思うだろう」と、そっと涙を拭いまぎらわす。

右大臣家の四の君も、二条殿で出産の予定で、八月下旬に移ってきた。四の君は、二人の姫君たちをやはり具合が悪いのでここには連れてこないが、大将も、「どうしてお連れにならないのですか。是非」とも勧めないので、「世間の噂は、嘘ではなかったのだ」と、右大臣なども想像していた。

九月一日ごろ、四の君に若君が生まれた。尚侍はこれを聞いて、様々な過去の出来事を思い出し、今時分のこうした状態はまるで夢のようだと思うのだった。今度の若君は、姉君たち二人には少しも似ておらず、ただ大将の顔をそのまま写し取ったかのようである。引き続き、尚侍に男宮の誕生があった。長年春宮候補の男宮も生まれないので、帝が夜昼祈念し、多くの神仏に祈祷した成果が会ったのだろう。華やかな一族の女性に皇子誕生のあったことを、誰もが類まれな幸福だと思い驚く。三日の夜は左大臣、五日は春宮の大夫、七日は内裏から、九日は大将と、それぞれ競い合って心を尽くして祝った様は、まことに素晴らしい。通常のしきたりの上に、さらに工夫をこらして管絃の遊びや何やらとこの上もなく仰々しいのにつけても、尚侍は最初の若君が生まれた時のことを忘れる時がない。

その頃、大臣の任命があって、右大将は大将を兼任したままで内大臣になった。順次に昇進して、中納言は大納言になった。

大納言は、宇治の若君を二条殿に迎えて吉野の妹君に預けた。若君の乳母は、あさましくも姿を隠した方の出自を、この吉野山の宮の姫君ではないかと推察していたが、実際に会ってみるとかつての女君ではなかったので、とても残念に思うのだが、この女君も愛らしく、実母以上に若君をかわいがるので、次第に親しくなり当時のことをいろいろとお話になる。

万事思い通りで、素晴らしい慶事ばかりが続いて、新年になった。正月、若君出産五十日のお祝いのころ、若君が春宮に立ち、もとの春宮は院となり、女院と申すことになった。尚侍は女卿の宣旨を受ける。間もなく、四月には中宮に立った。大納言は、大将の信頼が厚いということで、中宮大夫になったが、中宮があの宇治の橋姫と気づかないのは気の毒である。

宇治の若君が今ではとても上手にしゃべり、走り遊ぶのを見ると、大納言は、忘れない昔のことがまず思い出されて、吉野の妹君なら事情を知っていることもあろうと考え、時々様子をうかがって尋ねるが、女君の方は事情もわからぬ様子である。女君は、そのことにかもと思うことはあるのだが、誰かにとっても奇妙な話を自分がきっぱりとお話しするのもおかしなことだと思い、かたく決心して話さないので、大納言としては大変じれったい。

問題提起(ダイジェスト)

T尚侍の里居
U四の君と尚侍の出産
V人々の昇進
W女君の身の上
X心やましき大納言

発表者:大島  美恵子

←戻る 目次 次→