発表(16)

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要約:

あっという間に歳月も移り過ぎて、中宮は、二の宮・三の宮や姫宮まで出産したが、「こうなる運命だったのだ」と、誰しも事を大目に見過ごし、そばの女御たちにしても妊娠しないわが身を恨むほかなかった。右大臣家の女御は、他の人より前に入内なさっていて。「私こそ」と思っていたので、こうしたとんでもない世の事態につきあって行くのも気がひけて、里に下がってしまわれたと聞くと、中宮は「昔、四の君とのご縁で右大臣に恨まれた報いで、また宇治の橋姫のような状態で物思いをしていた当時、四の君のせいで男を冷たいと思い込んだ報いでこのように見捨てられているのか」と感じたが、またしても自分のせいでこの女御が世を恨んで里に下がってしまったことで、因縁があるとはいえ、恨みが絶えそうにない両家のかかわりにやりきれなさを感じている。

右大将の方でも。四の君のお腹に男三人が続けて生まれていた。左大臣で成長した若君も、今では成人して、吉野山の姉君の養子となってかわいがられている。

官の大納言も、吉野山の妹君のお腹に姫君二人と若君とが生まれたが、下の姫君は、右の奥方が特に希望して、この若君と、左右に置いてかわいがっている。

大納言の隠し子の宇治の若君も、すっかり成長し、内裏に出入りしているのを、中宮は見るたびに、とてもいとしく辛い思いをしているが、ある日の昼下がり、二の宮と若君が中宮の部屋に来たのだが、二人はとてもよく似ていて、特に若君のほうが美しく愛敬があり、しみじみとしてしまう。あたりに人もいないので、中に入るように言うと、二の宮は入ったが、若君が入ろうとしないので、「心配はいらないから、あなたもお入りなさい」と言うと、縁側に正座した。その姿を見ていると中宮はせつなくなり、涙を流しながら、「母親に会いたいと思うのならこのあたりにいつでもいらっしゃい。こっそり会わせてあげましょう」と若君に言って別れたが、十一歳になった若君を見送っては泣き伏してしまう。だが、そのとき偶然中宮のもとにこられていた帝に見られてしまい、若君が中宮の子であるのが知られてしまうが、帝は長年気掛かりだった不審の念を取り去ってくれたとうれしいのであった。とはいっても帝はもっと様子が知りたいので、今きたかのように中宮の前に来ると、涙を拭いている中宮が若君とそっくりなのに、今までなぜ気が付かなかったのかと苦笑いを浮かべる。そして帝は、それとなく中宮に、「若君の母親が誰だか知られていないが、一体誰なのか」と微笑みながら聞くが、中宮は何とか切り抜ける。そして、顔を赤くして背けてしまった中宮の愛らしさに帝の愛情はますます深いものとなる。

若君は、先刻の名残で、なんとなくしんみりした気分で退出して、こっそりと、「母上かと思われる人を見た父君には知らせないでとおっしゃったので、申し上げまい」と言って、ひどく悲しげに涙を浮かべているので、乳母がどのような人かと聞くと、「たいそう若々しく愛らしげで、こちらの母上よりも気品高く、私が母だと言葉には出さなかったが、母は生きているとおっしゃってひどく泣かれた」と言って、しんみりと考えこんでいるので、どこにいるのか聞いてみると、「父君に申せ、と御返事があった時に申し上げよう。今は言ってくれるな」と乳母に口止めするなど年の割にしっかりしていると、感心する。

右大将は麗景殿の女をさすがにゆきずりの女として思い捨ててしまわれるのも気の毒なお人柄なので、こっそりと通ってるうちに、たいそう愛らしい姫君が一人生まれた。右大将は四の君の生んだ姫君達以外には女の子はいなかったので、二条殿へ迎えようとしたのだが、麗景殿の女御が妹の身の姫君をたいそうかわいがって、手放そうとしないので、右大将は「それでもいいだろう」と思い、二条殿へ連れていくことをあきらめた。

年月はさらに過ぎ去って、関白左大臣は出家し、右大将が左大臣になり関白を兼任する。大納言は、内大臣で右大将を兼任する。帝も退位したので、春宮が帝位につく。新関白の四の君腹の姉君が女御として入内して、藤壺に入る。引き続き、この麗景殿で育った姫君が、東宮の女御として入内する。

何もかも思い通りで満ち足りた中でも、内大臣だけは月日が過ぎても、いまだに理解できない宇治での出来事が気がかりで、三位の中将となった若君の成長が進むにつれ、他人より際立った姿、学力など見るにつけ、「どんな気持ちで、行方をくらましたのか」と思うと、わびしくもつらくも恋しくもあり、深い悲しみにひたっている。

問題提起(ダイジェスト)

T中宮と若君の再会
U心の広い帝
V若君の人柄
W結末について

発表者:小笠原  理文

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