発表(11) | ←戻る 目次 次→ | ||||||||||
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要約: |
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新尚侍の出仕からの話 | |||||||||||
新尚侍は十一月末日にそしらぬ顔で春宮御所に参上した。女春宮は、あきれるほど長く音信不通になっていた思いがしたので、新たな気分で珍しくもうれしくもあり、早くこないかと待ちどうしく思っていた。一方、新尚侍の方は会いに行っても女春宮が自分の事をどう思うのだろうと考えると、気の毒であり、気恥ずかしくもあって、語り出す言葉も思い浮かばないでいる。女春宮がたいそう苦しげに横になっている様子が小柄で体もそこにないように見えるのに、お腹だけは盛りあがっている様子を見るのも心苦しく感じる。そばに寄り添うと、四の君と無心に夫婦として暮らしていた時の事を思い、あれこれ感無量の思いであった。女春宮は、新尚侍を以前の尚侍と別人とはまったく気づかず、日頃のつらさや悲しさなどを、なんの下心もなく新尚侍に打ち明けた。 一晩明けて、新尚侍は兄君から託された手紙を女春宮に渡すが、女春宮はこれが女装していた以前の尚侍の筆跡であることに驚き、理解に苦しみ涙にくれることになる。いよいよ事情を打ち明けようとするが、母親代わりの春宮の宣旨がやってきて、春宮の妊娠の原因は新尚侍が知っているものとばかり、ねちねちと責めたてる。ふたりの女性を前に、思わぬ窮地におちいった尚侍は、しばらく考え最善の思案をめぐらして、春宮の宣旨に、自分自身の諸事情や右大将に言われたことを全て説明し、また、「春宮の宣旨といっしょに女春宮の体を心配することができたて頼みの綱が生じたような気分でうれしい。」と慎重に考え答えた。その姿は、かつてより道理をわきまえた態度、受け答えのたしかなことなど、春宮の宣旨は同性ながらすっかり魅せられてしまい、なおいっそうくわしい事情を知りたくなって言葉をかけた。一方、疑問の解けないのは女春宮であるが、あれこれ思案して、どうも自分のところへ通ってきたのは右大将らしい、この目の前にいる尚侍は以前の女装の男と別人らしいなど、ともかくこの目の前の人が初めて見る人とわかっていくと、恥ずかしさと悲しさで目もくらむ思いであった。 その夜、ひそかに新尚侍の手引きを得て、新右大将は女春宮のもとを訪れた。新右大将の真実の告白を受けた女春宮は、男が我が身ばかりを大切に思って女を忘れはてていたということを述べた。その後も新右大将のひそかな訪れはあったけれども、いったん男というものの本質に気づかずいた女春宮は、苦しみながらも男のわがままをはねのける勇気を持った。この頃女春宮の心は完全に新右大将から離れていた。 帝は、春宮の病気のことも心配であるが、かつて尚侍に寄せた気持ちを今も忘れられずにいたので、「春宮の病気のお見舞いにことよせて梨壺へ出かけてみよう。」と思うようになった。ひっそりとした昼ごろ、人目をしのんでお出かけになって、御帳台の後ろにそっと隠れてみると、女春宮に寄り添っている姿に「たいそうかわいらしい人だ」とふっと目にとまる。 十二月にもなると、出産も間近になり新右大将もこっそりと何度も参上するが、女春宮は、そのことを「今さらなんだ。」とまで思う絶望の心を抱いていた。また、帝の方は執心のあまり、右大将に尚侍の私室への手引きを頼むが、妹の幸福を考える右大将は正式の后妃としての入内という手続きを考える。しかしその意向を聞いた父左大臣は、立派である。こうゆう近親者の英知によって、尚侍には明るい前途が想像される。気の毒なのは女春宮である。秘密の出産も近くなり、これから明暗二組の男女の恋愛は、一体どのようになっていくのだろうか。 |
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問題提起(ダイジェスト): |
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T女東宮の心境の変化 | |||||||||||
U新右大将の変化 | |||||||||||
V新尚侍の弁明と変化 | |||||||||||
発表者:大熊 篤史 |
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