発表( ←戻る 目次 次→

要約:

年も改まってしまったので、世を去る覚悟を決めた中納言は、身なりを整えて身のこなしなどにも心を配るようになった。内裏に参上したその姿は人目を引き、宰相は「今更女の姿に身を変えにくいのでは」と心配になる。中納言が何に対しても誠実に勤める一方で、帝が他の誰よりも中納言の発言を重用するので、中納言の評判は世の極みに達していた。

その年の三月一日頃、桜の花を観賞する宴が催された。当日、勅題をいただいての詩作で、中納言の作品は他に並ぶものがないほどの出来栄えだった。中納言の立派な姿に左大臣は「このままでも立派にやっていけるに違いない」と考える。日暮れに管絃の遊びが始まると、中納言は「二度と吹くことがあろうか」と笛を吹いた。その音色は言葉に表せないほどすばらしく、帝もたいそう満足して中納言は右大将の宣旨を受けた。一方で宰相も並みの人より優れているので、権中納言にとりたてた。右大将は「こんなに栄達する身なのに姿を消してしまうとは」と密かに嘆いていたが、権中納言は昇進の喜びもさて置き右大将の事が気にかかり、「あと少しで自分のものになる」と心を慰めていた。

右大将は体が窮屈になるにつれ、心細い思いで宮中で宿直がちに過ごしていたが、権中納言も参内してきたので、休憩所で話をすることになった。そのとき、右大将は権中納言が四の君からの文を持っているのを見咎める。そこには右大将の昇進よりも権中納言の昇進を喜ぶ内容の歌が書かれていた。右大将は心の中で「四の君は世間に疎いようでありながらこんな方だった」と思うが、自分の内心を四の君には少しも見せなかった。

この月だけはこうしていようとの思いから、右大将は左大臣邸に日参し、内裏の宿直を熱心に勤めた。宿直の夜、五節の頃に歌を詠みかけてきた人を思い出し、麗景殿の辺りでこっそりと下の句を吟詠すると、あの時の人が答えた。その心を嬉しく思い、右大将はそこで一夜を過ごす。

四月にもなると、右大将は動きにくい体を無理に何でもないようによそおっているが、権中納言は早く女姿にもどるように言い聞かせながら宇治に住めるように手配していた。右大将の方は「身軽な体一つなら吉野の宮のところへ行くのに」と考えていたが、「こんな姿でいるうちはこの人に言う通りに」と思い直して宇治に行く日を約束し、最後の挨拶に吉野の宮を訪ねた。

右大将は宮に自分は普通の場合より先の事が少々心細い身であると打ち明ける。宮は「ひどい結果にはならないでしょう」と言って、護身の祈祷をなどをした。さらに右大将は二人の姫にも涙ながらに別れを告げる。そうしている間にも右大将は両親にもう一目会いたいと思い、落ち着くことなく帰ることにした。宮は見抜いていることがあるので、念入りに護身の祈祷を行い薬を右大将に渡した。

右大将は世を捨てる覚悟をしていたことで四の君に対して一緒に過ごした年月のよい面だけを思い浮かべるようになっていて、今はただ愛しい気持ちがわくばかりであった。そこで右大将は四の君に権中納言との密事を知っているが、自分の愛情は変わらないと告げる。右大将が宣耀殿に出かけようとすると、姫君が後を追うそぶりをしたので、その可愛らしさに右大将は「もう会うことも無いだろう」と涙ぐんで姫君を抱いた。

宣耀殿に行き、右大将が「二人だけの兄弟なので、もし自分がいなくなった時の後の事が心配である」と尚侍に告げて涙ぐむと、尚侍も同じ気持ちでいたので、涙ぐんだ。そんな尚侍の美しい姿を見て右大将は、本来は自分がこうあるべきだったのと考える。一方で尚侍も自分こそ男姿でいなければならないのにと考えていた。二人はお互いに見交わして、その場を離れがたい思いにかられた。右大将が立った時尚侍は、右大将がいつに無い様子だったと胸がつぶれる思いで見送った。

問題提起(ダイジェスト)

T右大将の思いと左大臣の心情
U右大将と権中納言との気持ちのすれ違い
V右大将の四の君への感情の変化
W麗景殿の女との一夜
X四の君と権中納言との間の子への右大将の思い
Y右大将と尚侍との対比

発表者:鈴木 理恵子

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