発表(3) ←戻る 目次 次→

要約:

吉野山の宮邸へ

その頃、吉野山に先帝の第三皇子である宮がいた。この宮は万事に秀でた才人で唐国に遊学した。唐国でも歓迎されこの国の首席大臣の娘と結婚した。しかし妻は娘を二人産んですぐに亡くなってしまった。そのショックで首席大臣も病気になりまもなく亡くなってしまった。そして宮は唐国にいる気もせず二人の娘と一緒に帰国した。

帰国して二人の娘を目にふれぬようにして上京したが、謀反の疑いをかけられ追放されそうになった。そこで吉野山に領地をもらっていたのでそちらでひっそり暮らしていた。宮はさらに山奥に身をひそめたいと思っていたが、二人の娘がたいそうすばらしいので世間と縁を切るのをためらって、しかるべき人が現れるのを待っているのだった。

中納言は俗世を離れたいという気持ちが増していた。そんな折り、吉野山の宮のことを詳しく語る人がいた。おじが宮の弟子であるという。そして、中納言は吉野山の宮を訪ねたいと思い宮の御意志を伺ってもらうのだった。

宮は中納言の訪問をあっさり承知する。中納言はやっと願いが叶ったとうれしく感じる。中納言はすぐにも出家したい思うが宮の気持ちを推し測って、今回は宮の人柄を見定めて帰京しようと考える。

以前は四の君と二、三日離れるだけで不安に思っていたが、あの事件のあとはそうもしなくなった。お供は仲介人とほかには親しく思っている四、五人ほどでひっそりと人目を忍んで出発した。折から九月のことだった。

中納言は宮にとても心づかいをして宮邸にはいった。宮は、中納言のすばらしく美しい姿を見てとても感嘆した。そして話がはずむにつれ、中納言の学識の深さに目を見張るばかりであった。宮は中納言との出会いが二人の姫君が人並みに世間にでる機会だとわかっていたので、身の上話をすっかりしてしまった。その上品な姿に中納言も涙を流して自分の人並みでない身と心のありようを語った。そして宮は中納言には人臣として位を極めるべき運命にあるので現世を厭う必要はないと語った。それを中納言は不審に思うのだった。

あっという間に二、三日が過ぎ、姫君たちに琴を教わることになり、中納言はすばらしい姿で出かけていった。しかし人声がしないので歌を詠んだ中納言のすばらしい姿に姫君たちの心はどうしようもない。やっとのおもいで姉君がお返事をする。その上品で趣のあるけはいに中納言は興味をひかれる。そして中納言は姉宮に添い臥す。夜が明け中納言は部屋に戻ったが、姉宮の美しさが思いやられ後朝の文を送った。しかし姉君は恥ずかしく具合が悪いので返事はしなかった。日が暮れるとまた中納言は姫君の部屋へ行き月を見、琴をかきならすそんな日々に心を奪われ、都へ帰る気も失せていた。

あっという間に何日も過ぎ都の人のことが思いやられ、あれこれ忍ばれることが多いので中納言は都へ戻ることにした。宮や姫君たちにはすばらしい品々を献上した。宮からは中国のまだ日本には伝わっていない薬を献上された。そして姫君には引き続き無限の愛情を約束して帰京した。

問題提起(ダイジェスト)

T中納言の心の構造
U吉野山の宮は中納言の正体を知っているのか
V中納言の出家願望
W姉君との恋

発表者:星川 美音子

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