法学部

10.07.22

【法学部】リレー連載(Vol.15)「『デジタル人間』と『生身の人間』-あなたの個人情報はこう使われていた」(宮下紘准教授)

法学部専任教員によるリレー連載、第15弾は宮下 紘准教授です。

「デジタル人間」と「生身の人間」

-あなたの個人情報はこう使われていた-

駿河台大学法学部 宮下 紘

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 Yahooのホームページを開いてみてください。そのページの右側にはどんな広告が出ていますか。

 同じサイトを同じ時間に開いても、あなたに表示される広告は必ずしもほかの人が閲覧している広告と同じではありません。自動車のサイトばかり閲覧した人には、自動車とは関係のない検索サイトであっても自動車の広告バーが出るようになっています。化粧品サイトを閲覧した人には、化粧品の広告バーが出るようになっています。まったく同じサイトを見ていても、広告バーは人によって違います。広告を配信する企業の人とは一切面識がなくても、インターネットの画面はあなたの好みを知っているかのようです。

 デジタルの世界では、あなたの知らないところで個人情報が蓄積・分析されているのです(必ずしも個人識別情報を収集していないサイトもありますが)。サイトの広告バーのほかにも、書籍や服などの通信販売の履歴や広告サイトを閲覧した回数・時間から、その人が次に購入しそうな商品にターゲットを絞って広告することもよく知られています。また、多くの方が利用されている定期券のICカードからはあなたの一日の行動パターンや駅で買ったジュース・雑誌などからあなたの好みも分かってしまいます。

 私たちは、ときに「生身の人間」ではなく、いくつかの個人情報からなる「デジタル人間」として生活を送っています。「デジタル人間」として生活することは決して不便なことではありません。大量の商品があふれる中、自分の趣味や志向にあった商品のみをすべてカスタマイズできるならば、合理的な生活を送ることができそうです。インターネットでニュースを見る人は、自分の興味のあるニュースをクリックすれば、たちまち関連する記事のリンクも出てくるため、特定の話題のみをより詳しく知ることができます。また、企業にとっても顧客の過去の履歴情報から新商品の開発にも役立ちます。

 しかし、「デジタル人間」には落とし穴もあります。法的には、プライバシーや個人情報の保護、通信の秘密、さらには表現の自由にまでかかわる複雑な問題を指摘することができます。もっとも、これらの法的な諸問題を考えるには次の点に留意する必要があるかと思います。それは、「デジタル人間」が自分の趣味や志向を一定の方向へと導き、特定の集団としか向き合わないようにさせてしまうことです。私たちは、日々、いろんな人に出会い、刺激をもらい、新たなことに挑戦しようとします。昔はまったく興味のなかったことでも、ときが経つと関心をもつこともあります。それは、私たちがこれまでの趣味や志向とは違う新たなことに出会ったからなのです。もしかしたら、過去の履歴情報からは選択しない商品に手を出してみることで、新たな自己発見もありうるのです。いつもは見ないニュースをクリックしてみることで違った世界が見えてくるものです。今までこういうタイプの男性/女性とはあまり話をしたことがなかったけど、でも実は自分には相性がピッタリだった、ということもありそうですね。しかし、これまでの個人情報の蓄積のみからパターン化された生活を送っている「デジタル人間」は、趣味や志向が偏り、自分にとって都合のいい特定のデジタル空間を逃げ場とし、ときには自らの思想や見解と異なる者を排除することもあり、新たな自己発見を難しくさせてしまいます。

 私たちはひとりひとり異なる多様な存在であって、どんなにデジタル化された社会においても、「生身の人間」にはまったく同じ存在がいないことを認識し、「個人の人格尊重」の理念を大切にしたいものです。

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(欧州評議会での発表の様子)

*ここでの話の一部は、第30回データ保護プライバシー・コミッショナー国際会議(2008年10月・欧州評議会・フランス/ストラスブール)で「The Digital Person and its Privacy in Japan」というタイトルで発表しました。また、個人情報保護に関するトピックについては、拙著『個人情報保護の施策』(朝陽会/全国官報販売協同組合・2010)において紹介しておきましたので、興味のある方はご参照ください。

 8月4日(水)に予定されているサマースクールでは、このようなお話をいたします。7月30日(金)のオープンキャンパスの講義では、「個人の人格尊重」の理念がどのようなことを意味しているかについて高校生による訴訟を素材として考えてみましょう。みなさんのご参加をお待ちしております。

以 上

 第14回 「インサイダー取引禁止はどのような者におよぶか?」(王子田 誠教授)
 第13回 「鉄の時代を生き抜く―文学だって面白い」(海老澤 豊教授)
 第12回 「裁判員制度について」(堀田周吾准教授)
 第11回 「法律は「弱者」を守れないのか?」(草地未紀講師)
 第10回 「イマヌエル・カント」(福田二郎教授)
 第9回 「「本の王国」とブックタウン運動」(熊田俊郎教授)
 第8回 「「フレセキュリティ」(flexicurity)と「フレシキュオリティ」(flexsecquality)」(石田信平講師)
 第7回 「時効とは?」(竹内俊雄教授)
 第6回 「刑事政策について」(米山哲夫教授)
 第5回 「鳩山新政権と政治学」(西川敏之教授)
 第4回 「証明責任・証明妨害 ― 神判に起源?」(太田幸夫教授)
 第3回 「経済に関する法の直面している問題」(大録英一教授)  
 第2回 「私の憲法研究」(「北原仁教授)
 第1回 「子ども虐待の防止――私たちにできること」(吉田恒雄教授)

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