11.05.05
法学部専任教員によるリレー連載、第18弾は、成田憲彦教授です。

東日本大震災で被災された方々に心からお見舞いを申し上げ、一日も早い復興をお祈り致します。
大震災のような非常時において政治が果たすべき役割は大きなものがあります。これまでの震災に対する政治の対応を、戦前の関東大震災から見ていきましょう。関東大震災は、1923年(大正12年)9月1日午前11時58分に相模湾北西沖を震源として発生したマグニチュード7.9、最大震度7の地震によってもたらされました。津波の被害もありましたが、死者・行方不明者約10万5千人余の9割近くが地震直後の下町を中心とする火災の犠牲者で、家屋被害は全壊10万9千余棟、焼失21万2千余棟、損失額は当時の国家予算の4~7倍というわが国近代史上最大の自然災害でした。
震災前の8月24日加藤友三郎首相が病死し、29日に山本権兵衛元首相に組閣の大命が降下していましたが、組閣は難航し、前内閣の外務大臣の内田康哉が首相臨時代理になっていました。そこに大震災が起きたため、初動対応は前内閣の手で行われ、被災者救済に必要な物資を確保する非常徴発令、首相を総裁、内務大臣を副総裁とする臨時震災救護事務局の設置、戒厳令(正確には戒厳令の一部の規定を適用するもの)などの緊急勅令(緊急時に法律に代わり天皇が発する命令で、枢密院の承認が必要ですが、非常時のため内閣だけで出しました)が出されました。翌2日の夜になって第2次山本内閣が発足し、実施は震災内閣と呼ばれた同内閣の手で行われました。
臨時震災救護事務局の職務は、治安維持、被災者救護・食糧配給、必要物資の徴発、被災者の輸送、新聞の発行、緊急医療体制の整備などでした。内務省本省も焼失したため、事務局は内務大臣官舎に置かれ、官公吏500人~700人が実務に携わりました。注目されるのは、新聞の発行が入っていることです。当時テレビは無論ラジオ放送もまだなく、情報手段は新聞と口コミ(デマ)に限られましたが、新聞社も主要10社が被災し、情報の正確な伝達のため政府が「震災彙報」を発行しました。
関東大震災の初期の政府の重要な役割は、デマによる混乱の抑制でした。治安の維持が救護事務局の第一の任務になっていたのは、そのためです。震災に乗じて朝鮮人や社会主義者の暴動や放火があるという流言飛語が横行し、各地で自警団が結成され、朝鮮人の虐殺などが行われたことは広く知られています。救護では、公共建物や寺社のほか富豪の邸宅を開放させて被災者を収容し、食糧配給も行ったほか、9月半ばからテントの設営やバラックの建設を行いました。被災者救助は、政府、自治体や社会事業団体のほか、三井・三菱などの財閥も行い、また勝手に廃材等を集めて被災者がバラックを建築する自助も多く見られました。7日からは被災地の生活や経済の安定に力点が移り、債務者保護の支払猶予の緊急勅令、買い占め・売り惜しみ防止の緊急勅令等が発せられました。
関東大震災に対する政治の対応で現在評価されているのは、迅速な復興計画の策定と実施です。内務大臣後藤新平は、兼ねてから都市計画の必要性を説いており、早くも9月6日の閣議に「帝都復興ノ議」を提出し、これに基づき19日に首相を総裁とし、国務大臣や学識経験者からなる帝都復興審議会が設置され、27日には東京と横浜の都市計画を実施する帝都復興院が設置されて、後藤が総裁となりました。後藤が目論んだ大規模な東京の改造は、巨額に上る資金の制約や地権者の反対、政治的には枢密顧問官などの長老政治家の反対や、衆議院多数派で農村に地盤をもつ政友会の反対によって、思い通りには実現しませんでした。しかし焼失地域の区画整理と昭和通りと大正通り(現在の靖国通り)の整備をはじめとする下町地域の近代化、鉄筋コンクリート建築による不燃化などにより、江戸の姿を色濃く残していた東京を大きく変えることになりました。
〈主要参考文献〉
中央防災会議『災害教訓の継承に関する専門調査会報告書(1923 関東大震災)』 第1編~第3編 平成18年~20年
越澤明『復興計画』(中公新書)2005年
第17回 「株式会社の暴走をいかに防止するか?」(菊田秀雄准教授)
第16回 「成人年齢の引き下げ(18歳成人)と民法(1)」(上河内 千香子准教授)
第15回 「『デジタル人間』と『生身の人間』-あなたの個人情報はこう使われていた」(宮下紘准教授)
第14回 「インサイダー取引禁止はどのような者におよぶか?」(王子田 誠教授)
第13回 「鉄の時代を生き抜く―文学だって面白い」(海老澤 豊教授)
第12回 「裁判員制度について」(堀田周吾准教授)
第11回 「法律は「弱者」を守れないのか?」(草地未紀講師)
第10回 「イマヌエル・カント」(福田二郎教授)
第9回 「「本の王国」とブックタウン運動」(熊田俊郎教授)
第8回 「「フレセキュリティ」(flexicurity)と「フレシキュオリティ」(flexsecquality)」(石田信平講師)
第7回 「時効とは?」(竹内俊雄教授)
第6回 「刑事政策について」(米山哲夫教授)
第5回 「鳩山新政権と政治学」(西川敏之教授)
第4回 「証明責任・証明妨害 ― 神判に起源?」(太田幸夫教授)
第3回 「経済に関する法の直面している問題」(大録英一教授)
第2回 「私の憲法研究」(「北原仁教授)
第1回 「子ども虐待の防止――私たちにできること」(吉田恒雄教授)