法学部

10.01.06

【法学部】リレー連載(Vol.6)「刑事政策について」(米山哲夫教授)

yoneyama.JPG 法学部専任教員によるリレー連載、第6弾は米山哲夫教授です。

 

「刑事政策について」

駿河台大学法学部 米山哲夫

 私の専攻している刑事政策という学問は、まだ意識的に研究されるようになってから200年余りしか経っていない新しい学問分野です。教科書を見ればすぐ解ることですが、 刑法学などと違って、構成が人によってバラバラです。犯罪に関する学問には、犯罪現象 論、犯罪原因論、犯罪対策論の3つがあるとされていますが、学問としての刑事政策は、それらとはちょっとずれています。犯罪現象は国家的な資源を総動員しなければ解りませんし、犯罪原因もこれと明確に分かるようなものばかりではありません。つまり一研究者ができることではないのです。

 研究者にできるのは、国(私は「公権力」という用語を使います)が自ら設定した「犯罪」にどのように取り組んでいるのか、その特質を明らかにすることです。私は、この公権力の活動としての刑事政策、すなわち国家的見地から犯罪対策の在り方を工夫する活動を、できるだけ客観的に観察して行こうと思います。

 「在り方」というのはちょっと難しいですが、犯罪対策の「基本方針、限界、優先順位、配置等々」と考えてもらえば結構です。犯罪対策は誰にでもできます。泥棒に入られないように鍵をかけたり、痴漢に遭わないように夜道を避けたり、振り込め詐欺に遭わないように電話を確認したり、いろいろです。

 公権力も、非行少年対策、暴力団対策、交通犯罪対策などさまざまな対策を講じています。でも、そもそもどのような行為を「犯罪」にするかを決められるのは公権力だけですし、私たちは、決められた方法と程度でしか犯罪対策が取れません。犯罪を防ぐためなら何をやってもいいという訳には行きません。

 活動としての刑事政策を冷静に見て行くと、いろいろなことが見えてきます。それは、恐らく、公権力というものの本質にかかわる事柄です。公権力の原始的機能は、対外的には外敵の排除、対内的には社会秩序の維持・実現です。刑事政策は、主にこの対内的機能と関係しています。と言うよりも、公権力はその機能を果たすために、さまざまな政策・対策を講じますが、犯罪の設定とそれに対する対処という点に焦点を当てたのが刑事政策です。
 他の政策は分かりませんが、刑事政策を見て行くと、公権力の関心事は、敢えて言うならば、個々人の幸福なんてものではなく社会秩序の維持・実現だということがよくわかります。例えば被害者の扱いです。犯罪の被害に遭った人ならほとんどが犯人をきちんと処罰してもらいたいと思うでしょう。ところが検察官は全事件の約40%くらいしか起訴しません。また、昔からそういう傾向は指摘されていましたが、犯罪者も上層階級は実刑を受けにくいようです。

 私たちは政権を選ぶことはできますが、その選んだ政権が私たち個々人の生活要求をすべて満たしてくれると期待することはできません。公権力は、そこにどの政権が就くにしても、一定の性質を帯びるのを避けることはできません。だからこそ、私たちは、どの政権(公権力)がよりましであるかを冷静な第三者の目で見極めなければならないのです。刑事政策を勉強することは、そのための視座を与えてくれると思います。

以 上

<バックナンバー> 

 第1回 「子ども虐待の防止――私たちにできること」(吉田恒雄教授)  
 第2回 「私の憲法研究」(「北原仁教授)  
 第3回 「経済に関する法の直面している問題」(大録英一教授)  
 第4回 「証明責任・証明妨害 ― 神判に起源?」(太田幸夫教授)
 第5回 「鳩山新政権と政治学」(西川敏之教授)

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