10.06.24
法学部専任教員によるリレー連載、第14弾は王子田 誠教授です。
インサイダー取引摘発というニュースを新聞等で見かけることがあります。わが国においては1988年にインサイダー取引が法律によって禁止されるようになりました。禁止に違反すると刑事罰や得られた利益の没収といった厳しい制裁を受ける可能性があります。諸外国でも同様の法律が定められており、インサイダー取引禁止は世界の潮流ともいえるでしょう。
インサイダー取引とは、新聞の株式欄に掲載されている上場会社の役員が未公表の重要な情報を利用してその会社の株式を売買するのが典型例とされています。たとえば、製薬会社が画期的な新薬の開発に成功した事例で考えてみましょう。新薬開発情報を入手できる地位にある者(役員だけでなく開発部署の従業員も含まれます)は、新薬開発情報が公表される前に製薬会社の株を安い値段で買っておき、これらの情報が公表され株価が上昇した後で株を売れば確実に利益を得ることができます。新薬開発情報は未公表のうちは証券市場ではその情報がないものとして取引されているから、インサイダー取引は情報を有している者とそれ以外の証券市場参加者の間の情報格差を利用して利益を得ようとする行為とみることもできます。すなわち、インサイダー取引の違法性は証券市場の基礎となる投資家の平等を害する行為といえます。このような行為が横行すると投資家が証券市場から離れてしまい、国民経済上打撃を受けることにもなります。そこで、法律はインサイダー取引を厳しい制裁をもって禁止することにしました。
ところで、未公表の重要な情報を入手できる者は、会社の役員や従業員のような典型的インサイダー(内部者)以外にも考えられます。典型的インサイダーから情報の提供を受けた者(親族や友人等)も取引が禁止されます。さらに、ある会社に関するスクープ情報を事前に入手した報道機関の社員が株取引を行ったケースが摘発された事例もあります。情報格差を利用した投資家の平等に反する行為である点においては典型的インサイダーの場合と同様であるからです。最近ではこうした法運用を前提として、インサイダー取引の未然防止を図るような制度(たとえば情報アクセスの制限など)の構築も進められています。
典型的インサイダー以外のケースが増えてくるとインサイダー取引というより情報格差利用取引といった表現のほうが正確になるかもしれません。以上の例からわかるように法律がどのように使われるかはなぜその法律が作られたのかに深くかかわっています。
第13回 「鉄の時代を生き抜く―文学だって面白い」(海老澤 豊教授)
第12回 「裁判員制度について」(堀田周吾准教授)
第11回 「法律は「弱者」を守れないのか?」(草地未紀講師)
第10回 「イマヌエル・カント」(福田二郎教授)
第9回 「「本の王国」とブックタウン運動」(熊田俊郎教授)
第8回 「「フレセキュリティ」(flexicurity)と「フレシキュオリティ」(flexsecquality)」(石田信平講師)
第7回 「時効とは?」(竹内俊雄教授)
第6回 「刑事政策について」(米山哲夫教授)
第5回 「鳩山新政権と政治学」(西川敏之教授)
第4回 「証明責任・証明妨害 ― 神判に起源?」(太田幸夫教授)
第3回 「経済に関する法の直面している問題」(大録英一教授)
第2回 「私の憲法研究」(「北原仁教授)
第1回 「子ども虐待の防止――私たちにできること」(吉田恒雄教授)